開発コラム

ゲームの背景にある経済モデルについて

推定方法について

このゲームに登場する数式は、実際の日本のマクロ経済データ(1994年〜2023年)を元に、計量経済学の手法を用いて推定されています。

具体的には、消費関数や投資関数における変数間の複雑な関係性を考慮するため、二段階最小二乗法(2SLS) を用いて操作変数法による推定を行いました。

また、各経済変数間の長期的な安定関係(共和分)の存在を検定した上で、短期的な変動と長期的な均衡への調整を同時に表現できる誤差修正モデル(ECM)を採用しています。これにより、プレイヤーの政策介入が短期的な効果だけでなく、長期的にどのような均衡状態に収束していくか、というダイナミクスをシミュレートしています。

主なマクロ経済理論

このゲームの経済モデルは、マクロ経済学の基本的な考え方である「国民所得恒等式」を基礎としています。これは、一国の経済活動の総量(GDP)が、消費、投資、政府支出の合計と等しいという関係を示します。

$ Y = C + I + G $
  • \(Y\): 実質GDP(生産物に対する総需要)
  • \(C\): 実質個人消費
  • \(I\): 実質民間投資
  • \(G\): 実質政府支出

プレイヤーは、政府支出 \(G\) や、消費 \(C\)・投資 \(I\) に影響を与える税率や金利を操作することで、この恒等式を通じて経済全体に介入します。

データの出典について

ゲーム内の経済モデルの推定には、以下の公的機関が公表している統計データを使用しています。

  • 実質GDP・GDPデフレーター(物価):

    内閣府「国民経済計算(SNA)」より、四半期データを使用。GDPデフレーターは2020年を100として調整し、実質GDPを算出しています。

  • 金利(新発10年国債利回り):

    財務省「国債金利情報」より、新発10年国債利回りを使用しています。

  • 税率:

    財務省「税制の概要」等の資料を参考に、四半期データになるよう調整しています。

より詳細なデータセットや加工プログラムについては、以下のGitHubリポジトリを参照してください。

ゲームの主要な数式

1. 物価(フィリップス曲線)

物価の変動率(インフレ率)は、過去のインフレ率とGDPギャップ(需要の強さ)によって決まります。

$ \pi_t = -0.0010 + 0.3079 \cdot \pi_{t-1} + 0.0501 \cdot \text{gap}_{t-1} $
  • \(\pi_t\): 今期のインフレ率
  • \(\pi_{t-1}\): 前期のインフレ率
  • \(\text{gap}_{t-1}\): 前期のGDPギャップ(実績GDP - 潜在GDP)

2. 潜在GDP

経済の基礎体力とも言える潜在GDPは、過去のトレンドと、前期の実際のGDP成長率に適応的に調整されます(指数平滑化)。

$ \ln Y^p_t = 0.85 \cdot \ln Y^p_{t-1} + 0.15 \cdot \ln Y_{t-1} $
  • \(Y^p_t\): 今期の潜在GDP
  • \(Y^p_{t-1}\): 前期の潜在GDP
  • \(Y_{t-1}\): 前期の実績GDP

3. 個人消費(誤差修正モデル)

人々の消費は、可処分所得の短期的な変化と、長期的な均衡関係からのズレによって決まります。

$ \Delta \ln C_t \approx 0.8896 \cdot \Delta \ln Yd_t - 0.1589 \cdot (\ln C_{t-1} - \ln C^*_{t-1}) $
  • \(\Delta \ln C_t\): 実質個人消費の変化率
  • \(\Delta \ln Yd_t\): 実質可処分所得の変化率
  • \((\ln C_{t-1} - \ln C^*_{t-1})\): 長期均衡からの乖離(誤差修正項)

4. 民間投資(誤差修正モデル)

企業の投資は、GDPや金利の短期的な変化と、長期的な均衡関係からのズレによって決まります。

$ \Delta \ln I_t \approx 0.9362 \cdot \Delta \ln Y_t - 0.1318 \cdot \Delta r_t - 0.0401 \cdot (\ln I_{t-1} - \ln I^*_{t-1}) $
  • \(\Delta \ln I_t\): 実質民間投資の変化率
  • \(\Delta \ln Y_t\): 実質GDPの変化率
  • \(\Delta r_t\): 実質金利の変化
  • \((\ln I_{t-1} - \ln I^*_{t-1})\): 長期均衡からの乖離(誤差修正項)

経済予測の難しさとAIの可能性

このゲームで体験する経済モデルは、マクロ経済学の基本的な因果関係を理解するために簡略化されています。しかし、現実の経済予測は極めて難しく、たとえ精緻なモデルを多数用意したとしても、その予測が必ず当たるという保証はありません。現実の経済は、人々の心理、国際情勢、技術革新など、多岐にわたる要因が複雑に絡み合い、常にその構造や係数自体が変動しているためです。

経済学者は日々、より正確な予測を目指して研究を続けていますが、その道のりは険しいものです。

しかし、AI(人工知能)が台頭し、ビッグデータ解析の技術が飛躍的に進歩した現代において、もしかしたらこれまで人間には捉えきれなかった微細な変化やパターンを検知し、例えば「5日先の経済動向」をより高精度に予測できる日が来るかもしれません。このゲームが、そんな未来の経済学の可能性について考えるきっかけとなれば幸いです。

開発環境・使用技術

このシミュレーションゲームは、特定のサーバーサイド技術(バックエンド)を持たない静的なウェブアプリケーションとして構築されています。すべての計算と表示はユーザーのブラウザ内で完結します。

使用している主な技術は以下の通りです。

  • フロントエンド:
    • HTML / CSS / JavaScript
    • Tailwind CSS: UIのスタイリング
    • Chart.js: 経済指標のグラフ描画
    • Lucide: アイコン表示
    • KaTeX: 数式のレンダリング
  • バージョン管理:
    • Git

特定のUIフレームワーク(React, Vueなど)は使用せず、シンプルな構成で開発されています。

このゲームのソースコードは、以下のGitHubリポジトリで公開しています。